Irie Laboratory
Kumamoto Univ.
Research:
研究分野
研究のキーワード
らせん不斉・面不斉・軸不斉・不斉ヘテロ原子・金属中心性不斉
遷移金属錯体・有機金属化合物・キラル配位子
生理活性物質・円偏光蛍光性物質
(1) キラリティ制御
分子には、同じ組成であっても鏡に映した像と元の像が重ならない、いわゆる"右手型"と"左手型"があります。これら光学異性体と呼ばれる関係にある分子は、私たち人間を含めて生物に対して異なる作用を及ぼします。一方の光学異性体は有用でも、他方は役に立たないどころか有害なことも…。つまり、生物を相手にキラルな有機化合物を医農薬品として利用するためには、分子の組成や紙の上の(2次元)構造式のみならず、原子の3次元配列、すなわち立体化学(キラリティ)を精密に制御することが不可欠です。医農薬品のみならず、キラル触媒、キラル液晶、キラル高分子など、世界は多くの機能性キラル物質の創出を待ち望んでいます。その実現は、私たちの研究室の主要な研究テーマである"望みの立体化学を有する光学異性体をつくり分ける新反応"、すなわち「不斉合成反応の開発」が鍵を握っています。
(2) 触媒的不斉合成反応の開発
自然界では、生物がもつ酵素の働きによって一方の光学異性体のみが効率良く生産されています。つまり、酵素は一種の触媒と見なすことができます。酵素の中には、巨大分子であるタンパク質の中に金属錯体を取り込んだ構造を有しているものが数多く知られています(金属酵素)。少々厳密さに欠けますが、この金属錯体が触媒活性本体であり、その周囲にタンパク質(アミノ酸からできているのでキラル!)が優れたキラル空間をつくりだすことにより、高い立体選択性を示す“不斉反応場”が構築されています。しかし、酵素反応場は、生物学的意義から当然ですが、ある特定の基質に対してのみ有効に働きます(これを基質特異性といいます)。"フラスコの中で、望みの光学異性体を自在に合成する"ためには、有機合成化学的なセンスで酵素の機能を模倣し、様々な基質に対して優れた活性や立体選択性を示す触媒を創製する必要があります。この目的のために、私たちの研究室では、金属イオンに配位して不斉空間を創り出すキラルな有機化合物、すなわち"キラルな配位子"の設計・合成を進めています。世界に1つしかないオリジナルのキラル配位子と、周期表にちりばめられた金属イオンから様々な金属錯体や有機金属化合物を創製し、それらを触媒とする革新的な不斉合成反応を開発する、それが私たちの研究スタイルです。
(3) 機能性キラル分子の創出
私たちの生活は、いろいろな機能をもった有機化合物で支えられています。触媒、医薬品、液晶ディスプレイ、プラスチックなど、私たちの身近なところにも機能性有機化合物が溢れています。実は、それらの多くが "キラル"なのです。将来、革新的なキラル機能性分子材料が誕生すれば、私たちの生活は今よりも豊かなものになるでしょう。そのような背景のもと、私たちは、軸不斉、面不斉、螺旋不斉のほか、炭素以外の原子(例えば、ケイ素やリンなどのヘテロ原子、金属原子など)に中心不斉を有するキラル有機化合物・有機金属化合物・遷移金属錯体の不斉合成に注目しています。さらには,"トポロジカルキラリティ"なる珍しい不斉化合物にも興味をもっています。このような、"不斉炭素原子をもたないキラル化合物"の高効率的な不斉合成法の開発は、極めてチャレンジングな研究課題です。私たちの研究室では、独自に開発した不斉合成反応を武器として、これまでに知られていない様々なキラル機能性分子の創製を目指しています。
【標的キラル機能性分子】
・キラル配位子/キラル有機触媒
・キラルな有機金属化合物
・キラルな遷移金属錯体
・キラルな発光体